映画「哀憑歌」:ストーリー

『哀憑歌』〜CHI-MANAKO〜



ネオン街に華麗に咲く女・八重樫美咲(田畑智子)。夜の街を闊歩するホステス・美咲は店では一番人気の売れっ子だけに毎夜毎夜のアフター三昧。帰宅の途につくのは、いつも夜明け前である。

夜の水商売の世界でチヤホヤされている美咲にとって、男なんて「金・モノ・ご馳走を貰える」利用するだけの存在である。常連客も笑顔を振りまけばいくらでも金を注ぎ込んで来る。表の笑顔とは裏腹に、「貰いモン」人生を標榜する美咲は、「最高級品」以外は眼中に無い。今日も常連に貰ったプレゼントが半端な高級な程度の品だったので、さっさとゴミ箱に放り込む始末。

こんな「貰いモン」人生の美咲だが、もう一つ別の側面、「拾いモン」人生があった。実は美咲には同棲の彼氏・健哉(出合正幸)がいる。いつかは売れることを夢見るストリート・ミュージシャンである。いつもイライラをぶつけてしまうのだが、物欲にまみれた世界で生きる美咲にとっては、唯一本音をさらけ出せる存在なのかもしれない。



美咲にとっては、健哉の気負いの無さと毎日のバスタイムがくつろぎの場。毎晩毎晩、最高級化粧品のシャンプー・石鹸類でシャワーを浴び、日中はそれを買い求めるのが美咲の一番の趣味。日課のように最高の化粧品を探し求めては、日課のように使う。その欲望は「あぶく」のように、ただただひたすらに垂れ流されて行くのだ。

ある夜、常連客の神埼(永倉大輔)にアフターの後、送ってもらう美咲。神崎の執拗なアプローチを軽やかに断り、途中であるにもかかわらず車を降りてしまう。自宅までの暗い夜道をハイヒールの音高らかに闊歩して行く美咲。と、そこで一匹のウサギと出くわす−

「拾いモンと貰いモン」というのが美咲の生き方。思わず「ウサギ」に興味を持ってしまった美咲−それが思わぬ方向に導き込むのだ。

男をむげにして逞しく夜の街を闊歩する美咲。その美咲の悲劇の序章がいよいよ幕を開ける。